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「トランプ外交」についての資料紹介 [雑感]

なぜ予測がことごとく誤っていたのかなぜスイングステーツをことごとくヒラリーが落としたのか(なぜヒラリーがあそこまで嫌われて500万票以上落としたのか)、というのが政治学者にとって最初の問いであるべきだと思います。アメリカ政治について、民主党、共和党の変容でそれぞれ単著を、さらにビル・クリントンについて新書を出版された津田塾の西川先生の以下の論考は興味深いです。

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さて、外交がどうなるかは全く未知数です。このような報道を信じたい気持ちはなくもない、しかし匿名かつ自称の「トランプ外交顧問」に根拠は全くありません。

選挙当日にJapan Timesからインタビューを受け、三十分話したものが記事になりました。

http://www.japantimes.co.jp/news/2016/11/09/national/politics-diplomacy/trump-policy-asia-remain-unknown-japan/

基地負担の増加だけが対日期待になるのではなく、負担共有から負担シフトの時代が本当に来るのであれば、防衛予算の若干の増額や国際任務への参加にとどまらず、日本の本質的な安保政策見直しが必要になるのかも知れないですね。

その意味では、外交第23号に掲載された、クリストファー・レイン論文(と私の解題)を今読み直すのも思考実験としては興味深いと思います。(Googleですべて読めてしまいます、よいのかどうかはさておき。)後段で記すように、孤立主義への回帰がすぐさま起こるとは思っていませんが、ベクトルは生まれてくるかもしれませんので。

実際にトランプから発信されている演説としては、ニクソンセンター(現在はCenter for National Interest)で行われたものがあります。

近い立場といわれるカリフォルニア大のナバッロ教授とグレイ氏のアジア太平洋政策の論考はこれです。

彼らはレーガンのように力の外交を取り戻す、とか言っていますが、ニクソンセンター演説のように「現実主義」かもしれない。いずれにせよ、ネオコン路線のように民主化推進という路線は予測としてあり得ない気がします。手法として力(パワー)がひとつの鍵になるのは間違いないところです。

しかし、レーガンもニクソンも、アメリカの国際主義は疑わなかった。そこには大きな違いが生まれてくると思います。ファイナンシャル・タイムズのギデオン・ラックマンは以下のように指摘します。

 ケネディのビジョンの寛大さと広大さ、力強さはトランプ氏の宣言――我々の計画は米国が最優先となり、グローバリズムではなくアメリカニズムが信条となる――の狭量な国家主義との悲しいコントラストを描く。この2つのビジョンの違いは計り知れないほど大きく、不吉だ。・・・ケネディ世代は大恐慌と第2次世界大戦から厳しい教訓を学んだ。あの世代は「アメリカ・ファースト(米国第一)」――米国を広い世界の問題から隔絶しようとする政策――が最終的に、経済と政治の大惨事につながったことを知っている。だから1945年以降、共和党、民主党双方の新世代の指導者たちは世界のために経済と安全保障の構造を築いた。


トマス・ライトも、トランプ氏の外交ビジョンの本質を「同盟関係への反対、自由貿易への反対、ロシアなど権威主義体制への支持」と指摘していました。

リベラルな価値観を実現し、そして世界に積極的にかかわろうとする国際主義の衰退。これは1945年以後の世界の根幹を揺るがすことになります。

すぐさま孤立主義に戻るとはいえないにせよ、アメリカの国益を狭く捉え直した上での単独行動主義(ユニラテラリズム)の復活、マルチよりバイでの交渉を好む姿勢などが予測できるのではないでしょうか。

金正恩を交渉できる相手ではないと考えていることが救いでしょうか。北の長距離ミサイル実用化はトランプの政権一期目の間に実現されると考えられていますから、この点では北東アジア諸国と足並みを揃えそうです。(賢明にも鍵とみている中国と、経済圧力が聞かない場合にどのような交渉をして、彼が何を交渉材料にしてしまうのか、という点に懸念は残りますが。AIIBへのアメリカ加盟なんて「簡単」な話でしょう。)

いずれにせよ、トランプ氏が情報機関も、核兵器も抑えるというのは何とも心配であるのは言うまでもありません。議会共和党との関係は未知数ですが、共和党は上下院両院を抑え、極めて強い基盤を持ち得ます。

そして、ジョージワシントン大学のサンダース教授が指摘するように、結局は大統領個人の信念が外交政策に強く反映されることは間違いのですから。

この点に関連して思い出すのは、カーター大統領です。よく知られている在韓米軍撤退構想は大統領個人のイニシアティブだったものの、ありとあらゆる政権高官が食い止めに走り、結局骨抜きにされます。他方、同時期に進んでいた対中国交正常化、そして台湾問題の処理は、すでに台湾に関して国際的関心が下がっていたこともあって、同じ同盟国、北東アジア安保の重要問題であったにもかかわらず、カーターの政策決定への介入がとても強かったのです。その結果何が起きたか。詳しくは拙著『共存の模索』で説明していますが、拙速な交渉のなかで条件を双方納得して詰め切れず、台湾への武器売却にいたっては誤解が国交正常化発表の前日まで残っていました。ウッドコック北京代表はどうせ台湾は自然に中国の手に戻ると(キッシンジャーばりの)発言するわ、鄧小平は納得せずに、あとで蒸し返すと捨て台詞を残すわ、ヒドいものでした。両国のコミュニケも中国語訳に意図的な誤訳を許すなど、アメリカはとにかく失敗しています。しかし、重要なのはこれは大統領の役割が大きい、ブレジンスキー補佐官もその範囲内で目立とうとしていたに過ぎないということです。

さあ、トランプ外交はどうなるのか。「ギングリッチ国務長官」?「アヨッテ(初の女性)国防長官」?「フリン国家安全保障担当大統領補佐官」?よくわかりませんが、大統領を側近たちが止める場合もあれば、それとひき替えに好きにさせるところもある、という教訓はカーター政権から学ぶことが出来そうです。

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アメリカが来年からも変わらず、懐の深いアメリカであることを祈りたいと思います。