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米中電話会談と「一つの中国」 [雑感]

トランプ・習電話会談(17.2.9)で「一つの中国」政策を「尊重する(honor)」という表現が報道で取り上げられています。

正確には「アメリカ政府の従前の(our)」一つの中国政策を尊重すると言っています。その意味が分かる人は少ないのかな、と思いました。日本の新聞報道は少し不正確、アメリカでもイマイチな書きぶりです。(アメリカ政府は従来の政策を継続する方向、という書き方はOK)

学者の仕事かな、と思うので、(誰も見ないような気がしますが)少し解説します。

https://www.whitehouse.gov/the-press-office/2017/02/09/readout-presidents-call-president-xi-jinping-china

今回のホワイトハウスのリリースにある、
President Trump agreed, at the request of President Xi, to honor our "one China" policy. (トランプ大統領は習近平国家主席の求めに応じ、アメリカ政府の従前の『一つの中国』政策を尊重することに合意した)


という文面は、中国政府が考えているような一つの中国原則をアメリカが受け入れたことは全く意味しておらず、アメリカ政府の従前の立場(一つの中国政策)を、さらに尊重(honor)しただけです。

Honorの定義はto regard or treat (someone) with admiration and respect (Webster)であって、Chinese position(両岸の中国人の立場)をacknowledge(認識)したもの(78コミュニケ=従前の立場)を、「案外よいものだよね(尊重します)」としているだけです。

これを中国外交の勝利とか言っている中国人研究者は、正直終わっているような気がします。(NYTなどに引用)習近平さんを讃えれば御用学者としての責務を果たせるのでしょうが。

追記2.13 ourが米中両政府ではないか、との指摘がありましたが、一つの中国政策はアメリカのものであり、中国は原則と表記するのであり得ません。

追記2.13
honor/ acknowledgeの定義についてコメントを頂きました。honorはもっと強い、acknowledgeも認識といっても権威を認めているというものです。事実、acknowledgeはhonorよりは強いし、take noteよりは遥かに強い。しかし、承認でも受け入れでも決してありません。honorの定義は上に上げたもの以上ではないです。

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それでは、アメリカ政府の従前の立場(78コミュニケ)とは何か。

日本では78コミュニケもおそらく不正確な理解が一般に流通している(その原因は外務省仮訳にも起因していると思っています)ため、最近の展開が十分に理解できていないような気がします。

すでに著書『共存の模索』でも指摘してあるのですが、(中国政府を承認し、台湾の中華民国との関係を断交、台湾との経済社会関係を非政府で維持することに加え)、アメリカは[中国は一つであり、台湾は中国の一部という]中国『人』(Chinese)の立場を認識した(acknowledge)、というのが正確な「一つの中国」政策の立場です。

中国人、という表現は72年のコミュニケにあった両岸全ての中国人(=大陸と台湾をともに含む)からつながっている表現です。

中国政府は(アメリカ政府が)中国的立場を承認と訳したので、もう無茶苦茶(二重に間違っている)なのですが、日本政府仮訳も「中国の」立場、と訳してしまったのです。正確には中国人の立場という72コミュニケの理解をアメリカ政府は変えていないにもかかわらず。

最近、WSJでボルトン元国務次官(ついに国務副長官の夢は断たれたようですが)が「中国人の立場を認識したと言っても台湾は今や台湾人の国だ」と大胆な発言をしたところですが、ここでも「中国人」と理解されています。それでいいのです。(このボルトンさんのコラムは在沖米軍の台湾移転のところばかり注目されてしまい、とても日本的なのですが、本旨の理解が不十分です。)

なお、本当かよ、と思う方は、アメリカ政府で長く中国、台湾政策を扱い、責任者(AIT)を務め、ブルッキングス研究所北東アジア研究所長をずっとされているリチャード・ブッシュさんの本を読んでください。

繰り返しですが、中国政府の一つの中国原則をアメリカ政府が受け入れた/承認したなんていうことは過去も今回もないし、これからもないでしょう。

追記2.13
なお、アメリカ政府内でコミュニケ原案が作成されたのは77.7であり、その際には[中国は一つであり、台湾は中国の一部という]中国人の立場を受け入れる(accept)という表記がありました。これを認識(acknowledge)に修正したのは(さらに台湾は中国の一部を削除:のちに官僚が再挿入)ブレジンスキー大統領補佐官です。ブレジンスキーは、今や中国の友人の顔をしてますが、かなりのエピソードを著作のなかで紹介しておきました。

追記2.13
今回の流れを作ったのは、ティラーソン国務長官、および(楊国務委員と電話で話した)フリン大統領補佐官と報道されています。ティラーソン長官の上院議員への回答書も台湾問題で従来の立場を(ある意味で必要以上に)強調しているので、適時ブログでもフォローしていきたいと思います。

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電話会談翌日のピューリサーチの調査報告は面白いです。

アメリカにおける中国認識が著しく悪化しているという内容。過去10年で、ざっくり20%は悪化しています。党派制よりも、世代間の差が大きく、高齢になるほど中国認識が厳しいようです。

http://www.pewresearch.org/fact-tank/2017/02/10/americans-have-grown-more-negative-toward-china-over-past-decade/

共和党支持者のあいだではどうも、ロシアよりも中国を見つめる目が厳しいという結果もほかのピュー調査ではでています。

米中関係にあまり楽観の材料はない、と思います。別に一般的な中国の方々が楽観される分にはいいのですが、軍や最高指導部が変な楽観をして、西太平洋で暴れないで欲しいと、切に願います。トランプ=張り子の虎説が様々な中国人によって流布されていることは、何とも危険です。

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最近、トランプ政権と米中関係について、少しだけ解説をする機会が増えました。

東洋経済、2月4日号 74-5頁 (3回引用)
公研 2月号 38-54頁 対話:トランプ政権と米中関係(川島真・東大教授の胸を借りた対談)

今は少し大きめな解説を書いています。当たるも八卦当たらぬも八卦。。。

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